株式会社マリス代表取締役 和田 康宏氏に
「新規事業立ち上げに向けたミッション&推進プロセス」を講演頂きました
2021/2/10
2020年10月26日(月) ビジョンハウス研修
講師:株式会社マリス creative design 代表取締役 和田 康宏氏
テーマ:「新規事業立ち上げに向けたミッション&推進プロセス」
私たちにとって大切な学びの場「社内勉強会(ビジョンハウス研修)」の内容を皆さんに ご紹介いたします。コロナ禍の今回は、オンラインで実施いたしました。対面型の研修では、全員がリアルに集まって学び、意見交換する良さがありますが、オンラインでも実施することによって、「学び」を止めない姿勢を継続していきたいと思います。
この度は、株式会社マリスcreative design 代表取締役 和田 康宏様にご登壇いただきました。和田様は大学時代から福祉機器の研究に没頭され、日立、ソニーにおいてエンジニアとしてのスキル、知見をさらに高められ、そして2018年に福祉機器を開発する会社として、マリスcreative designを創業されました。ご自身のやるべきことを常に見据え、そのために着実に歩んでこられた和田様から、私たちは多くの刺激を受け、考えさせられる時間となりました。
1.テーマ設定の背景
私たちHRインスティテュートでは大切にしているバリューのひとつとして「シェアリング」を掲げています。これは、「私たちが世の中からいただいた資源(ヒト、モノ、カネなど)を他にシェアし貢献する」という考えのもとに成り立っているバリューです。私たちがこれまで培ってきたスキルや資金などを自分たちだけのために使うのではなく、社会に貢献していくという気持ちはメンバー全員に浸透しています。
加えて、私たちはコンサルティングや研修を通して、人々・組織のチャレンジを支援しています。例えば、企業やそこで仕事をするビジネスパーソンは、新しい事業や仕組みをどのように展開していくのか日々悩みの連続です。そのようなビジネスパーソンや組織のチャレンジを応援していくことが私たちの役割だと考えています。
和田様の考え方、実現しようとされていることは、まさに私たちのバリューと合致するものです。ご自身がお持ちの知識、スキル、行動力を他の方々(特に障害を持っていらっしゃる方々)の課題解決のために活用していらっしゃる。またそのために大企業を退職して 自ら起業というチャレンジをされてきた・・その姿から私たちは改めて多くのことを学ぶことが 出来ると感じ、お話をうかがう機会を作っていただきました。
2.和田様からの講義
では、ここからは和田様の講義内容をご紹介しましょう。
まずは、株式会社マリスcreative designの企業概要、そしてご自身がなぜ福祉機器の開発を目指されたのかの背景からお話いただきました。
□株式会社マリスcreative designとは?
2018年に創業。事業内容は福祉機器の企画・開発・設計、福祉機器の販売・レンタル、介護用品のレンタル、設計業務のコンサルタントです。「我々は、技術で世界中の人の生活を豊かにします。それは、障害者、健常者に限らずです。そして障害者と健常者の垣根さえもなくなる社会の創造をめざします」をビジョンに掲げています。そして現在では特に視力に障害をお持ちの方々を支援する歩行アシストの開発に尽力されているのです。現在ではJR九州および北九州市の協力を得て視覚障害者向け歩行補助装置「seeker」の開発を進めていらっしゃいます。
□その後のキャリアを決定づけるお母さまの障害
人生のトリガーは、お母さまが階段から転落し脊髄損傷になられたことです。当時、和田様は3歳。それ以降、和田様はお母さまを通して、障害者の方々を取り巻く「世の中の不便さ」を目の当たりにすることになります。それが、和田様が九州工業大学において機能代行システムを研究されることになるきっかけになります。障害者が 健常者と変わりない、垣根のない生活を送るための支援を、製品を通して実現したいというミッションそしてビジョンが10代、いえもっと前から設定されていたのかもしれません。学問から実際の製品化を行うために日立、ソニーにおいて組み込みマイコン装置の設計開発、交換レンズFWシステムの新規設計開発、モーター制御、マイコン制御における製品化を次々と経験されました。ご自身が将来実現するビジョンのために、大学での研究テーマ、企業でのご経験を積まれ着実にキャリアを重ねてこられたのは、障害者支援を実現し、世の中の不便さを解消したい!という強い想いを維持してこられたためではないでしょうか?
□創業にあたり
創業にあたっては5つのことを考えたそうです。
まずは具体的に何を提供するのか?また何の事業つまり事業領域をどうするのか?そしてどこで事業を行うのかを考えました。事業の大きな方向性を設定する必要がありました。事業の根幹は「福祉機器の開発」ですが、事業のロードマップをどう描くかは重要な観点だったと思います。その後資金や事務所についての具体的な検討に入られました。創業にあたり苦労した点として、「チームづくり」「マーケティング」「スケジューリング」を挙げられています。ミッション、ビジョンを共有し、達成に向けて想いやスキルを共有できなければチームとして機能できません。そして「顧客づくり」。
この2点については新規事業を立ち上げる際に重要でありかつ難しいポイントだと思います。またトップマネジメントとしての業務は多岐にわたります。時間管理をどう進めるのかガントチャートをもとに進捗管理されていたそうです。具体的にはスケジュールの妥当性の確認、マルチタスクの可視化(管理)、タスクの進捗、納期の可視化・・日頃私たちも心掛けていることと繋がりました。
□障害者支援機器、介護機器を取り巻く現状
一般的にはこの分野はお金にならないといわれているそうです。起業された際、周囲からは「慈善事業だから細々とやっていったらどうか?」とも言われました。逆に考えれば、福祉機器は未開拓の市場とも言えます。和田様は「福祉機器をとりまく環境は2002年から変わっていない。障害者のニーズからの発想ができていない。たいがい、機器に必要な技術選定から初めてしまう。」と言います。つまりプロダクトアウトの製品開発です。障害者が自立して行動するために何に困り、どんなところに不便を感じ、何を求めているのか・・その発想から製品を開発しなければ意味がないのです。また日本では認可がいらないので、医療機器よりも100倍つくりやすいとのこと。現在障害者と認定されている人は936万人と言われています。人口が減少しているにも関わらず、障害者数は減少していません。またこのうち視覚に障害をお持ちの方は約31万人。不幸なことに視覚障害者のホーム転落事故もたびたび発生しています。
和田様の歩行アシスト機器「Seeker」が製品化され、多くの方が利用するように なれば視覚障害者の方がもっと広い世界に出ていくことができるのです。
□製品開発における大企業の問題点
大企業でも様々な分野の製品設計、開発に携わられてきた和田様ですが、大企業特有の問題点にもふれられています。
・組織が細分化されすぎている(製品全体を見わたす人がいない)
・決定プロセスが遅い(部署が分かれているので、担当者が複数の責任者に話に行く必要がある。)
・技術力が下がっている
ー何の技術が足りないのかが理解できていない
ー人を育てる意識がない
ー新規のカテゴリー製品が少ない
ーマネジメント層が現状把握できていない
このように現場感覚をお持ちの和田様から提示された問題意識は私たちも非常に納得できる内容でした。また和田様は日本全体の製造業の危機についてもふれられました。
・ソフトウェア(アプリなど)の技術者ばかり育てようとしている
・とりあえずプログラムだけやっている
・ハードコントロールとハードの技術が飛躍的に低下している
・この部分が中国とアメリカにおさえられている。ここをおさえられたらおしまい このままいけば日本の製造業の将来はどうなっていくのか?の懸念を感じずにはいられません。
□ベンチャー企業の問題点
また一方でベンチャー企業にも様々な問題があるとの指摘をされました。
・外注(海外に頼っている)試作品作成後製品化までのプロセスがわからないので、中国、韓国に発注していて開発の根本的なところは海外におさえられる
・製品化プロセスの理解が薄い。デモ機作成後のほうが長い
・大学に頼りすぎている。どんなに偉い大学の先生でも試作品作成後を知らない
大企業、ベンチャー企業両面の現状を知っているからこその問題意識を共有していただきました。
和田様のお話をうかがい、私たちは多くの学びと刺激を受けました。そしてさらに理解を 深めるために多くの質問をさせていただき、以下の回答をいただきました。(Q&A抜粋)
HRI)日本の部品メーカーたちをどうみていますか?
和田様)日本はそれで生きていくと思っているのか疑問。世界に負けてないつもりでいるならそのつもりでやらないといけない。
HRI)今後のビジョンは?
和田様)視覚障害→聴覚障害→身体障害へ広げたい。福祉機器業界を稼げるものにしたい。投資家などからそんなに稼げなくていいよね?と言われる。これを産業にしないといけない。盛り上がらないと人も集まらず値段も下がらないから。
HRI)ソニーの社内起業制度を使おうとしなかったのですか?
和田様)大企業のよくない部分も知っていて、その中でその制度を使おうとは全く思わなかった。自分の作りたいものを作れない。
HRI)和田様として起業したときにどういうメンバーに声をかけましか?
和田様)福祉機器開発への思いがある人。同じ研究室出身の人が手伝ってくれたが、他にもいたが創業期の思いとスピード感についてこれるかどうか?ステージにあった人材かどうか?が大事
HRI)技術者とお話しすると、技術に対する愛情が強いがゆえにお客様の視点がかけていることがあった。大手メーカーで働く技術者の方への必要な研修は何になりますか?
和田様)当事者目線で開発しないといけない問題意識があった。販売応援だとそれで終わる。ユーザー目線になれる研修が必要だと思う。あとは一部分しかみれていない点もあると思う。プロジェクト全体がみれていない。
今回、明確なミッション、ビジョンを掲げ、事業を推進していらっしゃる若き優秀なエンジニアのお一人である和田様からのお話をお聞きし、日本のモノづくりで忘れかけているかもしれない「あるべき姿」を痛感させられた想いです。貴重な時間をいただき、HRIメンバー一同感謝いたします。
記:フェロー チーフコンサルタント 染谷文香
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