人口減少は本当に悲観論なのか

2016/10/6
 筆者:狩野 尚史
 
最近よく耳にする日本の人口減少に対する悲観論。

 

人口減少が原因で経済が衰退するのではないか、大きな市場性が見込めないから海外に進出するべきだ、また逆にAIの進化により人間の職が奪われていくのではないか、と様々な議論がなされています。

 

まず、論点として「消費人口」なのか「生産人口」なのかを考えるべきことは言うまでもありません。
マーケットを考える際には消費と生産の両軸で議論することは大前提です。
コンサルティング現場における環境分析シーンで必ずと言ってよいほど出てくるテーマでもあります。
そこで、今回は最近特に耳にする生産人口としての「人手不足の問題」について考えてみたいと思います。

 

生産人口を考える際に気を付けなくてはいけないのが「労働生産性の減少」と「労働人口の減少」とではその意味合いが大きく異なるということです。

 

生産人口と捉えた際に本当に日本の人口減少は経済的に悲観的なものなのでしょうか?
「人口と日本経済」(吉川洋 著)で興味深い示唆がなされています。
著者は本書の中で、こう指摘します。
「先進国の経済成長を決めるのは人口ではなく、イノベーションである。」と。

 

確かに、日本の人口は2010年を境に減少に転じていますが、歴史的経験からも人口増加とGDP成長の関係性を見ると決してその関係性は比例関係を醸成していません。

 

具体的に見てみると、過去100年において日本の人口は2.3倍ですが、GDP(国内総生産)は35倍にもなっています。1人当たりのGDPも15倍になっています。
特に第二次世界大戦後の経済成長率を支えたのは、人口の増加ではなく生産性の向上であることは良く知られたことだと思います。

 

しかし、なぜか今「人口減少」=「経済低迷」のように解釈されてしまっていると指摘しています。
世界的な歴史を人口学的に見ても、増加に対する危機感もあれば減少に対する危機感もあり、それぞれの国々が対応を迫られてきました。

 

明治時代の日本においてもこの「過剰人口」の問題を解決するために海外移住を推奨していました。
多くなれば減らす。少なくなれば増やす。の繰り返しだったのでしょう。
更にアダム・スミスは「国富論」で国の繁栄度合は人口の増加数であると説いています。
しかしながらその議論も現代先進国にとっては少し違うようです。

 

「生産性」という概念のもとに経済が変化していく中で、我々日本の未来を考える時には、人口数=生産力と捉えるのではなく、「一人当たりの生産性」に注目すべきだと改めて考えさせてくれます。
イギリスの産業革命に起きたイノベーションもそれまで100人掛かっていた工事が5人で出来てしまうような機械の登場によって、より新しい価値創造のために「一人当たりの生産性」が使われるようになり飛躍的に産業が進化したのだとも指摘します。

 

AIの進化によりより一人当たりの生産性の向上が引き起こされ、職がなくなるのではなく、職による価値が飛躍的に向上すると考えるべきなのかもしれません。
人口減を悲観的に捉えるのではなく「減る」によって新しい創造性が生み出されることに視点を向けるべきなのです。その知恵こそがAIには代替のできない人間の強みだと感じます。
「人の豊かさ」に対しては「経済成長派」か「平等派」に分かれますが、そもそもの「豊かさとは何か」という大命題に対して、個人も企業も腰を据えて考える良い機会です。

 

経済合理性だけが通用しなくなった経済心理と、経済合理性を無視はできない経済心理の狭間で、我々が造るべき未来を対話する時代に突入したのだと思います。
正解を求めるだけではなく、問いを立てるチカラを互いに高めることが出来れば、未来を悲観的にみるのではなく創造的に見られるのだと信じています。

 

未来は推測するだけではなく、未来を自ら創り出すことへの気概を持ち、「成功の反対は失敗ではなく、成功の反対は動かない事である」ということを信ずるならば、新しい明日を創るために、考え動くことで生産性向上が生まれると感じています。

 

我々が生きている「今」も100年後には歴史になります。未来は歴史の積み重ねの先に存在します。
今まさにその歴史を創っている張本人であるという自覚を一人ひとりが持てるかどうかが重要なのだと思っています。

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