ビジョンハウス研修レポート 「失敗学」

2026/3/30

今回のテーマとゲスト

「失敗学──こやなぎひろしの失敗学」
  講師:小柳 洋 様(経営コンサルタント/元NHKディレクター・MITメディアラボ客員研究員)

弊社メンバーの学びの場である「ビジョンハウス研修」では、毎回各分野のプロフェッショナルをお招きし、視野が広がる学びを得ています。2026年3月の回では、パソナグループでの新規事業開発、ロシア極東でのインフラ事業、そして倒産・破産というご自身の経験まで含め、ダイナミックなキャリアを歩んできた小柳洋 様をお迎えし、「失敗学」をテーマにご講演いただきました。成功談ではなく、失敗の“本質”を語っていただく、非常に濃密な時間となりました。

※以下、講義の要旨です。

講義内容

1. 小柳氏の歩んできたキャリア

小柳氏は北九州の半農半漁村から上京し、ICU卒業後、NHKディレクターとして多数の経済ドキュメンタリーを制作されました。その後、退職してMITメディア研究所に留学したのち、旧ソ連崩壊期のロシアに向けた投資育成事業を推進されました。その後は神戸の震災復興プロジェクトに参加し、エコカーのレンタカー事業や新広告媒体(静止ホイールキャップ)を開発。世界各国のメディアに取り上げられ、ニューヨークのイエローキャブ1万台への導入契約にも成功されています。しかし、2001年9月11日、ニューヨーク同時多発テロにより、広告市場が一夜で消失。事業は崩壊し、自身も破産を経験されました。その後は独立し、経営コンサルタントとして復帰。現在は国内外で複数の企業支援に携わっています。

2. 「世界がひっくり返った瞬間」を体感する

MIT在籍中の1989〜1991年、小柳氏は連続する世界史的事件を “インターネット経由でリアルタイムに知った”という歴史的経験を語られました。

■天安門事件(学生がメールで世界に発信)
■ベルリンの壁崩壊(デマが引き金に)
■旧ソ連崩壊(情報ネットワークの力が露呈)
■イラクのクゥエート侵攻(衛星通信がリアルタイム報道を可能に)

これらは「インターネットが世界を動かす」瞬間であり、後の通信インフラ革新事業の創造につながったとのことでした。また、若い頃に抱いていたアメリカの理想像と、現地で触れた現実とのギャップについても触れられ、「国家は常に自国の利益を基準に行動する」という認識が、後のリスク感覚につながったといいます。

3. ロシア極東での事業づくり

旧ソ連崩壊直後のロシア極東地域では、ビジネスに必要な制度やインフラが十分に整っていない状況でした。小柳氏は、通信・警備・空港運営・法制度の整備に関わる事業提案やプロジェクトに関与し、現地の専門家や若い人材と協力しながら、試行錯誤を重ねてきたそうです。現地の多様な人材を巻き込みながら、法律・文化・ビジネス慣習を越えた挑戦を続けてきたエピソードが語られました。

4. 神戸での新規事業と大きな「失敗」

帰国後、阪神淡路大震災後の神戸で、エコカーだけのレンタカー事業を創業。採算の厳しさに直面する中 “走行しても静止して見えるホイールキャップ” を使った広告ビジネスを開発。神戸市営バスから海外のタクシー会社まで広がり、ニューヨークのイエローキャブなどの媒体契約を獲得するまでに成長しました。しかし、9.11を契機に広告需要は急速に冷え込み、事業は立ち行かなくなります。結果として、多額の負債を抱え、経営者として人生で最も大きな痛みとなる経験をされたと振り返られました。「事業も資産もすべて失い、人生の運命が決まったように感じた」この経験こそが、後に語られる「失敗学」の出発点となります。

5. 小柳氏が得た“失敗学”の本質

失敗を30年間反芻し続けて得た結論として、小柳氏は“最悪のケースを徹底的に想定する力”の重要性を強調しました。技術・政治・地政学的リスクが増す現代において、とても示唆に富む視点でした。

・ブレストは「ノー」と言わない回と「全てダメ出しする回」を必ず両方やる
・異質な相棒を持つ(自分がアクセルなら、相手はブレーキ役)
・環境が変われば、当たり前のインフラは一瞬で消える

自分が前へ進むためのエネルギーとしては楽観主義は大事だけれども、従業員を抱え、お客様を抱え、株主の期待を背負う以上、「それでもダメかもしれない」という想定をし続けることが、もっと大事だと小柳様はおっしゃいました。

Q&A

Q1. 推進力とリスク想定のバランスは、どのように取るべきなのでしょうか ?

A.
アクセルが強い人は、ブレーキが弱い。そのため重要なのは、自分とは異なる視点や判断基準を持つパートナーと関わること。価値観や性格が違う相手と協働することで、自然とブレーキ役や方向修正の視点が加わり、結果として健全なバランスが生まれると語られました。

Q2. 失敗に対する想像力を広げるためには、どのような方法が有効でしょうか ?

A.
小柳氏は、日本社会には「失敗を表に出しにくい文化」があるとした上で、失敗を語れる環境そのものが想像力を広げると述べられました。例えば、倒産した、破産した、という話を自ら開示しない。でもアメリカのビジネススクールなどでは、失敗した教授の授業の方が人気がある。自分の深いところをさらけ出すことで、相手も本音で返してくれる。そこで深いコミュニケーションが起き、想像力の幅が広がる、ということに気づいたそうです。

Q3. 事業者として、リスクアペタイト(許容度)の線引きはどのように考えるべきでしょうか ?

A.
「一律の正解は存在しない」という前提を強調された上で、まずは自分自身が持っている資源(時間・資金・経験・人脈など)を正しく把握することが重要だと述べられました。リスクは“見える化”されれば料理できる、だから、リスクは“買ってでも探すべき”、という、リスクを避けるのではなく、「把握し、扱える状態にするもの」という考え方が印象的でした。

Q4. 内省を深める際に、特に大切にされているポイントはどこでしょうか ?

A.
内省において小柳氏が最も重視しているのは、自分自身の性質を冷静に理解することだそうです。ご自身については、“迷ったら飛び込む”“あと先考えない”タイプと認識しており、行き過ぎないように、自分を戒めているそうです。欠点と長所は表裏一体であり、どちらかを消すのではなく、どの場面でどう作用するのかを見極めることが内省につながるという考えが示されました。

Q5. 大きな失敗から、どのように立ち直ってこられたのでしょうか ?

A.
小柳氏は、立ち直りの過程において、周囲の人との関係性が大きな支えになったと語られました。友人や家族とのやり取りを通じて、「生きている」という事実そのものに意識が向き、視点が少しずつ変わっていったとのことです。9.11の時には世界貿易センタービルの南タワーにオフィスがあったので、死んでいた可能性もある中、生きているということは“最悪ではない”と思えたそうです。家族も一切“頑張って”と言わず、ただそばにいてくれた。家族や友人に自分をさらけ出すうちに立ち直ることができたというエピソードが語られました。

Q6. 人によっては大きなショックから立ち直れない人もいます。立ち直れる人と、立ち直れない人の違いは何でしょうか?何がその分岐点になるのでしょうか?

A.
一般化は難しい前提を置いた上で、小柳氏は「情報との向き合い方」を一つの視点として挙げられました。「エコーチャンバー」といわれるようにネットの中では自分が興味のある情報ばかりに囲まれる状態、という小さな世界ができてしまう。そうなると、自分の意見と同じ方向の情報しか入らず、違う視点が視界に入らない。視野が狭くなるほど、立ち直るきっかけも見えなくなる。

大事なのは、自分の殻の中に閉じこもらず“多方向の視点に触れること”。それが視野を広げ、気持ちの余白をつくり、立ち直りの力につながります。世界は偏っているし、人間も不完全。でもその不完全さを許容し、様々な角度で物事を見られる人ほど、また前に進めると考えているそうです。

Q7. 失敗を“教訓化”するためのコツは何でしょうか?研修講師として、自分や他者の失敗をどう扱えば学びとして伝わるのか知りたいです

A.
小柳氏は、「失敗の多くは致命的なものではない」という感覚を持つことが前提だと述べられました。もちろん倫理や法に反する行為は別とした上で、ほとんどの失敗は致命傷にはなりません。大谷翔平ですら3割しか打てず、7割は失敗している。それでも打席に立ち続けることで実績になる。同じように、私たちも“失敗の数”を恐れずに挑戦し続けることが大切です。

また、失敗をそのまま事実として語るだけでなく、自分なりに意味づけを行い、相手に伝わる言葉に置き換えることが大切だと強調されました。誰に向けて話すのかを意識し、自分の言葉で語ることで、初めて経験が消化され自分自身への理解にもつながります。

Q8. 戦争や災害のような予測不能な“外部ショック”に対して、どんな備えができるのか?

A.
小柳氏はまず、金銭的に評価可能なリスクと、そうでないリスクを分けて考える重要性を挙げられました。損害保険などで地震保険や戦争保険、台風保険のように“特約として買えるリスク”もあります。金銭リスクは“買えるものは買う”という姿勢が基本になる一方、ブランド価値や人材の安全といった無形のリスクについては、複数人で洗い出し、優先順位をつけて検討していく必要があると語られました。

不確実性を完全になくすことはできないものの、分解し続けることで備えの選択肢は増やせる、という現実的な考えが示されました。

まとめ

今回の研修では、小柳氏の率直な体験談を通して、失敗をどう捉え、どう次につなげるかを深く考える機会となりました。

■成功からではなく、失敗からこそ、深い教訓が得られる

■異質性と多様性が未来をつくる

■想像力がリスクに勝つ

■さらけ出すことで人は強くなれる

まさに「実践知」が詰まった2時間でした。私たち自身も、“想定外の時代”を生きています。今回の学びを、プロジェクトの設計・チーム運営・意思決定に活かし、より強い組織づくりにつなげていきたいと感じる研修となりました。小柳様、この度はご講演まことにありがとうございました。

記 太田 希

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